部下を「自律型人材」に育てる1on1マネジメント
「気づき」を促すための具体的な対話アプローチ
従来のOJTやフィードバックだけでは、部下は「指示されたこと」をこなす専門家にはなっても、「自ら考え、行動する」人材にはなりにくいという課題がありました。1on1は、この課題を解決するための最適な環境を提供します。
- 失敗や弱みを開示できる「心理的安全性」の醸成: 成長の第一歩は、自分自身の課題や「できていないこと」を認めることです。1on1は評価の場ではないため、部下は安心して「実は、この業務がうまくいっていません」「〇〇のスキルに自信がありません」といった本音を打ち明けることができます。この自己開示こそが、成長の出発点となります。
- 「経験学習モデル」を高速で回すサイクル: 人は「経験→省察→教訓化→実践」というサイクル(経験学習モデル)を経て成長します。1on1は、この「省察(振り返り)」と「教訓化」を意図的に行う絶好の機会です。「あの案件、どうしてうまくいったと思う?」「もし、もう一度やるとしたら、どこを改善する?」といった問いかけを通じて、部下は自身の経験をただの出来事で終わらせず、次につながる学びへと昇華させることができるのです。
- 「現在」と「未来」をつなぎ、仕事の意味を再発見させる: 日々の業務に追われていると、部下は「この仕事が将来の自分にどう繋がるのか」を見失いがちです。1on1でキャリアについて対話することで、現在の業務が未来の目標達成に向けた重要なステップであることが認識されます。この「意味づけ」が、仕事へのモチベーションを内発的なものへと変え、自律的な行動を促します。
「気づき」を促すための具体的な対話アプローチ
上司の役割は、答えを教えることではなく、良質な「問い」を投げかけることで、部下の視点を広げ、思考を深めることです。テーマごとに具体的なアプローチを見ていきましょう。
- 課題の分解
「その業務の『何が』一番難しいと感じる?」 - 原因分析の促進
「その原因について、何か思い当たることはある?」 - ネクストアクションの自発的設定
「もし、あと一つだけ試せるとしたら、どんなことができそう?」 - ネクストアクションの自発的設定
「これまで試してみたことは何? それで何がわかった?」 - 経験の意味づけ
「この難しい経験を通じて、どんな力が身につきそうかな?」
未来の「キャリア」から逆算して今の行動を考える対話
キャリアの対話は、部下の「Will(やりたいこと)」「Can(できること・得意なこと)」「Must(すべきこと)」の3つの円を重ね合わせ、その中心を見つける旅のようなものです。
Will(やりたいこと)を引き出す質問
- 「もし何の制約もなかったら、どんな仕事に挑戦してみたい?」
- 「仕事を通じて、世の中にどんな価値を提供したい?」
- 「最近、どんな時に『仕事が楽しい』と感じた?その理由は?
上司が「これをやってほしい」と期待を伝える(Must)だけでは、部下は指示待ちになりがちです。本人の「やりたい」という純粋な意欲(Will)を明らかにすることで初めて、仕事は「やらされるもの」から「自分ごと」へと変わり、自律的な成長のエンジンに火がつきます。
Can(できること)を認識させる質問
- 「自分の一番の強みは何だと思う?それはどんな場面で活かされてる?」
- 「周りの人から、どんなことで頼られたり、感謝されたりすることが多い?」
- 「過去の失敗経験から学んで、今ではできるようになったことは何ですか?」
感謝や信頼という客観的な事実を通して、そうした行動が価値ある「強み」なのだと再認識するプロセスは、部下の自信を補強し、新たな自己肯定感を育みます。これは、本人がまだ気づいていない潜在的な強みや才能を掘り起こし、自身の能力をより多角的に理解させる上で、非常に有効な手法と言えるでしょう。
Must(すべきこと)とつなげる質問
上司が部下の「Will」と「Must」の架け橋となることで、部下は自律的にキャリアを築くオーナーシップを持ち始め、日々の仕事に高いモチベーションで取り組むようになるのです。
- 「その『やりたいこと』を実現するために、今の業務で活かせることは何だろう?」
- 「これからどんなスキルや経験を身につけていく必要があると思う?」
- 「そのために、明日から具体的に始められる小さな一歩は何だろう?」
未来への”夢”や”憧れ”を、現実の”行動”へと具体的に落とし込むための、極めて重要なプロセスです。この対話を通じて、「Must(すべきこと)」は単なる業務命令ではなく、自己実現に向けた意味のあるステップへと昇華します。