日常から使える1on1の教科書~目的設定から具体的な質問術まで~

「信頼関係」とは何か?

マネジメントにおける真の信頼関係とは、個人的な好意を持つ「好き・嫌い」の次元で語られるものではありません。それは、「この人なら安心して仕事を任せられる」という能力への信頼と、「この人は決して自分を裏切らない」という人間性への信頼、この2つが両輪となって初めて成立する、より強固なパートナーシップなのです。
  • 人格的信頼:「この人は、一人の人間として自分に向き合ってくれる」: これは、上司が部下を単なる「業務を遂行する駒」ではなく、感情や人生を持つ一人の人間として尊重し、その幸福や成長を心から願っている、と部下が感じられることです。損得勘定や評価を抜きにして、安心して自己開示できる関係性を指します。
  • 能力的信頼:「この人は、自分の成長や課題解決を助けてくれる能力がある」: これは、上司が持つ経験、知識、スキル、そして時には社内の影響力などを用いて、部下が直面する困難を乗り越えるのを実際にサポートしてくれる、という期待感です。ただ優しいだけでなく、「頼りになる存在」であることも信頼には不可欠です。

1on1が「信頼の預金残高」を増やすプロセス

信頼関係を、銀行口座の預金に例えてみましょう。日々のポジティブな関わりが「預金」となり、困難なフィードバックや厳しい要求といった「引き出し」が必要な時に、関係性が破綻するのを防ぎます。1on1は、この「信頼の預金残高」を増やすための最も効果的な手段です。

  1. 「あなたのために時間を確保した」という明確なメッセージ
    多忙な上司が定期的に、他の業務を中断して「あなたのためだけの時間」を確保するという行為そのものが、「あなたのことを大切に思っている」という強力な非言語メッセージとなります。この繰り返しが、人格的信頼の土台を築きます。
  2. 「評価者」から「支援者」への役割転換
    1on1の場では、上司は「評価する者」という鎧を脱ぎ、「支援する者」「コーチする者」という役割に徹します。業務の進捗を詰めるのではなく、部下の悩みやキャリアについて真摯に耳を傾ける。この一貫した「味方である」というスタンスが、部下の警戒心を解き、心理的安全性を育みます。
  3. 約束と実行のサイクル – 小さな成功体験の積み重ね
    1on1で「この業務、少し手伝うよ」「〇〇の資料、探しておくね」といった小さな約束が交わされた際、それを確実に実行することが極めて重要です。この「言ったことを守る」という小さな成功体験の積み重ねが、「この人は口だけでなく、本当に行動で示してくれる」という能力的信頼を着実に高めていきます。

「評価者」から「支援者」への役割転換

1on1の場では、上司は「評価する者」という鎧を脱ぎ、「支援する者」「コーチする者」という役割に徹します。業務の進捗を詰めるのではなく、部下の悩みやキャリアについて真摯に耳を傾ける。この一貫した「味方である」というスタンスが、部下の警戒心を解き、心理的安全性を育みます。

自己開示の返報性 – 上司がまず心を開く

部下に本音を話してほしいのであれば、まず上司自身が自己開示をすることが不可欠です。「自分も若い頃、同じようなことで悩んだよ」「実は今、マネジメントでこんなことに挑戦しているんだ」といった上司の人間的な側面を見せることで、部下も安心して自分の弱みや本音を話しやすくなります(自己開示の返報性)。この人間的な相互理解が、関係性をより強固なものにします。

約束と実行のサイクル「小さな成功体験の積み重ね

  1. 質の高い情報が集まる: 信頼する上司にだからこそ、部下は現場で起きているネガティブな情報(トラブルの予兆や顧客からのクレームなど)を隠さずに報告するようになります。これにより、組織は迅速な意思決定と問題解決が可能になります。
  2. 建設的な意見対立が生まれる: 部下は「これを言ったら評価が下がるかもしれない」という恐れなく、上司やチームの方針に対して健全な異論や改善提案を投げかけることができます。この心理的安全な場での意見のぶつかり合いこそが、イノベーションの源泉となります。
  3. 困難な状況でのエンゲージメントが維持される: 会社の業績が厳しい時や、困難なプロジェクトに直面した時でも、「この上司(このチーム)となら乗り越えられる」という信頼が、部下のエンゲージメントを支え、離職を防ぐ強力なセーフティネットとなるのです。

1on1を通じた信頼関係の構築は、部下の成長を促すだけでなく、変化の激しい時代を生き抜くための、レジリエント(しなやかで折れない)な組織文化を創造するための根幹と言えるのです。